企業インタビュー

トヨタ自動車 平田様 インタビュー

2020年11月5日

トヨタ自動車 MS車体生技部設備技術室 主幹 平田 正成 様に、CPE資格(現在のCPE-B級資格)の資格取得者インタビューを行いました。

MS車体生技部設備技術室 主幹 平田 正成 様

※以降敬称略、所属・役職はインタビュー当時

トヨタ自動車 平田 正成様
目次

組織や社内での役割とは

社内での役割やお立場を教えてください。

平田 所属部署はMS車体生技部で、役職は主幹となっています。
世間一般でいうところの課長級に当たりますが、組織のマネージャーではなく、プロジェクトマネージャーと位置づけられています。
MS車体生技部はもともと、プレス生技部、ボデー生技部というプレス、溶接関係の生産技術部隊でしたが、昨年(2019年)の1月から車体生技部として1つになりました。
車のホワイトボデーを作る生産技術部署で、その中の設備技術室に所属しています。
プレスとボデーの設備開発や導入、標準化を進めるセクションです。

プレスとボデーの部署が1つに統合されたわけですが、その統合により設備技術室の役割に変化があったのでしょうか。

平田 本質的に求められているものは変わってないと認識しています。
我々はプレス型や設備を作っている会社ではなく、車を生産し販売する会社です。
ですが、会社組織が大きくなるのに伴い、専門化の傾向が、強くなってきたと感じています。
技術的に深堀りをしていくと、プレスだけに最適化されたり、ボデーだけに最適化されたりする部分があったのでしょう。
トータルでものづくりに最適化させるため、本当に最適な工程計画ができているのか?という目線に立ち、仕事内容・工程を見直す為、統合したと考えています。

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生産技術を起点としたこれまでのキャリアは

平田さんはずっと生産技術者としてキャリアを積んできたのでしょうか。

平田 私は入社してから10年間、プレスの生産技術の職場に所属しており、リーマンショックの前後を経験しています。
リーマンショック前は、新しい工場・ラインをどんどん入れており、若かったこともあり一歩引いて業務内容を考える時間もないまま、慌ただしく過ぎていったように思います。
リーマンショックの後は、組織の収益力を高めるよう、原価低減をずっとやっていましたね。
当時を振り返ると、どちらかというと技術的に深堀りしていくことに集中していた時期で、視野を広く持つことはできていなかったように感じます。
2014年に1年間、堤工場の車体部、つまり製造部に異動し、プレスの製造現場をサポートする役割を与えられました。
製造部では、部品の品質を上げるために現場がしている苦労を知りました。
また、設備や金型を使っていくことの難しさや大切さも、この時に学びました。
日本で1年の製造経験を経て、海外へ出向しています。

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海外出向を通して学んだこととは

海外出向された際のお立場やお役割について教えてください。

平田 海外へ出ると1つ上の職位で業務することになるのですが、ローカルマネージャーの相方として、プレスの製造現場を3年間見てきました。

国内外でプレスの生産技術やマネジメントを経験されてきたのですね。

平田 私が行ったのはヨーロッパのイギリスで、トヨタ車、日本車がなかなか売れていない環境でした。
海外出向中は、生技ではなく製造部の立場でしたが、生産技術がバックグラウンドにありましたから、実質上は製造兼生産技術という形で仕事をさせていただきました。

海外出向で、守備範囲がより広くなったのですね。

平田 はい、貴重な経験をさせていただいたと思っています。
イギリスは、私がいた2年目(2016年)にEU離脱の国民投票があり、離脱が決まりました。
ちょうどそのころ、新車の企画をしていたのですが、投資の規模や環境がガラッと変わってしまいました。
ただでさえ厳しい毎年の原価低減目標が、さらに2割ほど厳しくなりました。

国内と海外では、生産技術者の役割にどのような違いがあるのでしょうか。
幅広い責務を持って業務しなければならない環境が多いように感じましたが、いかがでしょうか。

平田 国内だから海外だからという訳では無いと思いますが、やはり事業所の規模がヨーロッパの場合は小さいので、1人で見なければならない範囲は広くなります。
海外で管理者の立場で業務、組織を見るようになり、会社をつぶすかつぶさないかという環境で日々過ごすうちに「原価」に対する理解が身に着いていったと思います。
職場とその職場の原価に責任を持たされるので、経営目線で考えて判断を下し、そこから導いた活動をしなければなりません。それが海外へ出て学んだことです。
社員の数が多いと、1人ひとりが専門家になることがよくあるのですが、そうでない会社も結構あると思います。
規模が小さいところだと、1人ですべてを見るようなケースもあるでしょう。
私のヨーロッパでの経験は、そのような視野を大きく広げる機会になったと思ってます。

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CPEを知ったきっかけとは?

CPE資格については、海外に行く前のタイミングで受験されたことになりますか。

平田 2018年6月に受験しましたので、海外に3年間いて、帰任した後になります。生産技術に戻った年に受験しました。

CPEを知ったきっかけは何でしたでしょうか。

平田 上司から「受けたらどうか」と声をかけてもらったのがきっかけです。

その上司の方は受けられていたのでしょうか。

平田 受けていなかったみたいです。

以前はどのような方が受けられていたのでしょうか?

平田 毎年、各部で平均して1人が受験していました。
試験の内容から生産技術と製造の両方を分かっていないと難しいと言われていました。
しかも、原価の話も出てきますから、予算を取り、管理しながらプロジェクトを進める経験も必要になります。
私がいた設備技術室からは2年に1回ぐらい受験者がいましたから、それで選ばれたと認識しています。

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CPE資格取得に向けた勉強を振り返って

最初にこのガイドをご覧になった際、どんな印象を受けましたか。
「難しそうだ」とか「思ったより簡単そうだ」とか感じませんでしたか。

平田 6~7割は既に業務で経験があり、知っている内容でしたが、2~3割は全く知らない分野でした。
かなり幅が広いという印象を持ちました。

製造などにあまりかかわったことがない経験の浅い若手が受けるには、少し難しいように思いましたか。

平田 経験の浅い人には、正直、ハードルが高いと思います。

やはり、実務を伴ったうえで勉強しないと、深いところまで染み込んでいくのは難しいのでしょうか。

平田 そうですね。
少なくとも生産技術か製造のどちらかをある程度、経験してからの方がいいと思います。
もしくは海外出向などで、1つ上の立場で働くようになる人向けの教育としてやってみるのも良いと思います。

ガイドの中で役に立った、または勉強になったと感じられた部分はありましたか。

平田 中身は知っているけど、言葉・単語を知らないことも結構ありました。
体系的に今まで積み重ねてきた自分の知識や経験を棚卸しし、頭の中を整理することができました。
知らないことが多かったのは、物流システムと工場の生産管理システムです。
私は工場でプレスを担当していたので、組立工程や外注部品納入などの管理は詳しくありませんでした。
その辺りも学ばないといけなかったので、正直 学習に時間がかかりました。

勉強を始めるタイミングを知りたいという質問がよく出てきます。
やはり生産技術に関しては、4~5年の経験があった方がいいとお考えでしょうか。

平田 かなり幅が広い資格だと感じているので、個人的にはもっと経験があった方が良いと思います。
ある程度視野を広く見るようになるタイミングで勉強するのが良いと思います。
モチベーションを保つためにも、その方がいいのではないでしょうか。

新しく入ってくる社員の方に事前に社内教育で利用し、ある程度知識を入れた状態で現場へ行ってもらうのはどうでしょう。

平田 新入社員の方はまずコア技術を身に着けた方が良いと思いますが、中堅程度の方には効果的と思います。ですが、ゼロから勉強する部分は、利用しなければ忘れてしまいますので、入社後4、5年経って生産技術から製造に異動するタイミング、製造から生産技術へ異動するタイミングで勉強するのはいいと思います。

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CPE資格取得に向けた勉強方法とは?

この試験に向けて具体的にどのように勉強を進めていったのでしょうか。

平田 受験が7月を予定していましたが、受験することが決まったのは、5月の連休前後です。
ガイドのボリュームがかなりありましたから、1度読んだだけではとても覚えられそうもないと感じました。
そこで、2回読み切るつもりでスケジュールを立て、遅れが出ないよう気をつけて勉強していきました。
最初の1回目は読みながら、大事だと感じた部分にマーカーを引いていきました。
しかし、半分ぐらい読んだところで苦手な(未経験の)分野の理解が低いと痛感しました。
このため、2回目からノートを取りながら、勉強していきました。
我ながら、少し受験生みたいだなと思いました。

ご自身で分からない部分を要約して、暗記する感じですね。

平田 分からない部分もそうですし、大事だと思うところをノートにまとめ、ガイドの要約版をノート上で作った形になりました。

仕事をしながら勉強する上で、平田さんは朝型、夜型、土日詰め込み型、どれでしたでしょうか。

平田 家族がいる時間帯は勉強する時間の制約がありましたから、私は家族が寝てから勉強するようにしました。
朝は正直、難しいですね、うちは皆起きるのが早いので。

1日1時間とか勉強時間を決めていたのでしょうか。

平田 そうですね。時間だけでなく、日割り、週割りでここまでやると定め、それについて行くよう勉強を進めていました。
ペースが遅れたら、次の日に挽回したり、試験が近づいてくると日曜日は私用の予定を入れずに勉強に充てたこともありました。

勉強を始めたのは、ゴールデンウイークが明けたころからでしたか。

平田 ゴールデンウイークが明けた1週目に計画を立て、2週目ぐらいから始めました。

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試験当日の対策、試験の感想とは

試験の当日にテストセンターへ行ったと思います。
その日は休みの日でしたか、それとも会社を休んで行ったのですか。

平田 当日は、有休を取って試験に行きました。
上司から受験者に選んでもらった際、「必ずと合格するように、合格する人間を選んだつもりだ」というプレッシャー(激励?)もありましたので、モチベーションを保つ材料になりました。

会社から期待されていたわけですね。

平田 ありがたいことです。会社として合格率を重点フォローしていた年だったこともあると思います。
試験の当日に有休を取っただけでなく、テストの直前に別日で有休取得して仕上げ勉強も1日しました。これは不合格になれないな…と思っていたので。

(記憶されている範囲で)試験に行くときは、こんな格好をしたら楽だった等のアドバイスはありますか。

平田 私は、当日の格好は特に気にしていませんでした。
試験センターは初めて行くところなので、緊張していたのは覚えています。

ゲン担ぎはしませんでしたか。

平田 していません。絶対に合格できると思うくらい勉強しました(笑)
職場の先輩から、合格できなかった人が結構いた、合格した人はかなり勉強した…という話を聞いていたので。
私もガイド読了1周目半分ぐらいで勉強する幅が広いことから、これはやばいと感じるようになり、真剣に取り組みました。

勉強するだけでは試験問題のイメージがわかないこともあると思いますが、実際の問題を見てどうでしたか、イメージ通りだったのでしょうか。

平田 過去に受験した先輩のテキストを使い回していたので、「ここが大事」というコメントが残っていました。
さらに、自分で読んでみて大事だと感じた部分をノートに取っていきましたが、それらがそのまま問題に出てくれました。
100%ではありませんが、大体予想通りでした。
試験に出そうなところを意識しながら、勉強したのが良かったのかもしれません。

先輩のアドバイスやノートを取ったことがうまくはまったようですね。

平田 分かるところはあまり意識せず、知らなかったところを重点的に勉強したのも効率的に勉強できて良かったと思います。

組織として勉強を進めることは、個人のCPE資格取得にも後押しになっています。
企業によっては勉強会を開くなどして先輩から後輩へ教えている事例がありますが、先輩からの指導はどんな形だったのでしょうか。

平田 指導は基本的にありません。
先程お話しした過去に受験した先輩の「ここが大事」というメモがテキストにあった程度です。

書き残してくれていたことですね。

平田 書き残してくれていたことは、本当にありがたかったですね。
その上で自分が重要と感じた部位を加え、勉強していきました。
試験受験後すぐに自分の得点が出てくるのですが、偏差値みたいな算出方法でした。
生産技術のTOEICのようですね。

各分野ごとにどれだけ正答できたかを示す指標として、セクションごとの得点率を算出しています。

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資格を取得して良かったことは?

CPE資格を取得して良かったと感じた部分はありますか。

平田 資格に合格できて良かったというより、幅広い勉強をさせていただいて良かったと思っています。
企業人として技術開発してものづくりを進め、それを実際の商品として売ることで利益を出しています。
技術屋として技術的な部分を突き詰めるのも大事なことだと思いますが、開発したものを買ってもらうためには、こんな価格設定で、投資額はこの程度以下…ということを意識することの重要性を再認識できました。
あとは、製造の管理や維持、海外工場の建設の仕方など、知識・理解の棚卸しができたのが良かったです。

CPEで培った知識を生かせる場面は、職場でありましたでしょうか。
例えば、だれかに聞かれてこう答えたとか、CPEで学んだことを発表する機会があったとかです。

平田 これといった場面は思いつきませんが、新規プロジェクト開発をしている際に、投資に対する効果の原価見積もりが幅広く、精度も高くできるようになったと思います。

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CPE資格取得後のキャリアビジョンと、検討される方々へメッセージ

この資格を取得されて、これからどんな仕事をやってみたいとお考えですか。
キャリアビジョンを少しお聞かせいただけたらと思います。

平田 特にこの資格を取得したからやりたいという業務は正直ないのですが、基本的に生産技術者という枠組みだけにとらわれず、製造と生産技術の両方を理解して、ものづくりの最適な工程と製造現場を造れる人間になりたいと思っています。
製造をよく知っていることが生産技術にとっても重要だと思います。
生産技術・製造の両方に精通することでベストなモノづくりを提案していきたいと考えています。

現場の経営者みたいな感じだと理解していいですか。

平田 違いますね。生産技術・製造のマイスターでしょうか?私自身もまだ模索中です。

最後に、これからCPEを推進する、資格取得をすることを検討される方々へ、メッセージをお願いしたいと思います。
まず、組織内の教育推進者の方々へ、お願いします。

平田 組織としてCPEを推進していくとすれば、こういう知識を持つ人を社内にどれくらい必要かを割り出し、教育のターゲットを決めていくのが良いと思います。
弊社は受験者の人選が各部に委ねられていますが、どういう年次・タイミングでどんな教育で育てるべきか。
組織的に計画検討する必要があると思います。
特に、他社や海外に出向して幅広い領域の仕事をしたりする人には、CPEは有益な知識になると思います。

次にこれから勉強する受験生の方々にメッセージをお願いします。

平田 この資格は取得することが目標、ゴールではなく、将来どんな知識を得てどんな仕事をしたいか、どんなふうに働きたいかを思い描くためのサポート、通過点になるものだと思います。
そう考えたうえで受けていただけば、受験のモチベーションも高まるでしょうし、働き方も変わるのではないでしょうか。

貴重な話をいただきましてありがとうございました。

平田 こちらこそ、ありがとうございます。